10月 (エイシラズの月)




『観測所……こちら、星天観測所』

『遠い世界のお友達……聞こえますか………聞こえますか?』

『観測所……こちら、星天観測所…………』





 雨の名残が香る秋の夜、街灯の傍にメイドが立っていた。

肩のところがモコッとしていて、腰のところがキュッとした服。

無駄の無いスカート。黒いストッキング。やけに足が細い。


小柄で色々と薄っぺらで儚げな彼女は、僕を見た途端、


「宿で待っているわ」

「黒い下着をつけて」


と言ったかと思うと、フリルつきエプロンのポケットから糸巻きとリボンを取り出して

目にも留まらぬ速さで投げつけてきた。


「痛いっ、なんで!? えっ、黒!?」


 …………。

 彼女は一瞬で姿を消した。

そして道端に残った、白い糸巻きと赤いリボン。

黒のインパクトを忘れられない僕は、どこか浮かれた気持ちでポケットに突っ込んだ。

空き地の草が夜露を輝かせ、どこからか質の悪いラジオの声が聞こえていた。



『こちら、星天観測所』

『遠い世界のお友達、話をしましょう』

『観測所……こちら、星天観測所…………』






 次の日、鞄を引っつかんで家から出て、僕の人生は終わった。



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